蝸牛の歩み

蝸牛の如く,ゆっくりでも着実に前へ・・・

ヒメマルマメタニシの命名者と記載年に関する備忘録

陸産貝類は目録があるので記載論文を追いやすいんだけど、淡水貝の場合はそうもいかない。
ヒメマルマメタニシ(Gabbia kiusiuensis)の命名者と記載年は、S. Hirase, 1927とされる場合が多いが(ex. 増田・内山, 2004)、Shiba, 1934とされる場合もある(ex. Kim & Kim, 1990)。どちらが正しいのだろう。
Shiba, 1934は、「朝鮮軟體動物目録」である。その中に「G. kiusiuensis (Hirase, 1919, Bulimus) 」とあるが、分布が書かれているのみで記載はない。ただ、文献参照があるため有効な記載になりうるということかな。
ここで引用されているHirase (1919)は、武藤(1919)の「肝臓「ヂストマ」(Clonorchis sinensis)の第一中間宿主に就て(第二回報告)」の一部である。Bulimus kiusiuensis Hirase (nov. sp.)と新種であることが明示されている。しかし、その前に「余は他日Bulimus kiusiuensisの名を以て記載発表をなす考えなり。」とある。このため、Hirase (1919) では新種記載を棄権していると考えられて、命名者、記載年としてHirase, 1919は用いられないのだろう。
S. Hirase(1927)は、「日本動物圖鑑」であり、その中に図つきで説明がある。先取権の原理から、Shiba (1934) ではなくこれが有効だろう。