蝸牛の歩み

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博物館における文献複写サービス

某館から、博物館で所蔵している書籍や文献類のコピー等に関する照会があった。回答する際に、念のため根拠となる法律を調べてみた。

コピーを行う場合には、著作権が問題になる。

著作権法 第30条では、私的複製が認められている。すなわち、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするときは、その使用する者が複製することができるとなっている。しかし、部外者からコピーを依頼された場合には職員がコピーすることになるかと思うが、「使用するものが複製する」という条件に該当しなくなってしまう。

では、セルフ式のコピー機を設置して、利用者本人にコピーしてもらえば私的複製になるのだろうか。実際、横浜市立図書館では、著作権法第30条による私的使用のための複写も館内でできるようにしているという(wikipedia:複写)。しかしながら、私的複製は個人的な利用目的のために私的領域(例えば自宅)で行われる複製であり、公の場である図書館で行われる複製は私的複製とはいえないという批判があるようだ(wikipedia:複写)。私は法律の専門家ではないので判断がつかないが、博物館も公の場であり、私的複製とは認められない可能性がある。ただ、条文を素直に読めば「個人的に使用することを目的とするとき」は、複製する場所が私的領域だろうと公の場だろうと私的複製になると読めるんだけど……。ともあれ、うちにはセルフ式のコピー機はないし、今後設置するのも難しいだろう。

次に、著作権法 第31条では、図書館等における複製が定められている。では、博物館は「図書館その他の施設で政令で定めるもの」に該当するかが問題になる。政令とは著作権法施行令 第一条の三で、「四  図書、記録その他著作物の原作品又は複製物を収集し、整理し、保存して一般公衆の利用に供する業務を主として行う施設で法令の規定によつて設置されたもの」というあたりは、ひょっとして該当するのかも?と思うが、「司書又はこれに相当する職員として文部科学省令で定める職員」が置かれていないといけない。今度は学芸員が「司書に相当する職員」になるかどうかを文部科学省令で調べてみると、著作権法施行規則 第一条の三で司書に相当する職員というのが定められていて、どうにも該当しそうにない。

ということで、せっかく貴重な文献等を所蔵していても、来館者あるいは研究者に対して複写サービスを行うのは、著作権法上難しそう。もちろん、著作権が切れていたり、当館が著作権を有する場合、著作権者の許諾を得た場合はよいのだが……。